私たちの社会生物学
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)物懶《ものう》い
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三七年八月〕
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毎朝きまった時間に目を醒す。同じ部屋で、同じ蒲団のなかで。それから手早く身じまいをして、勤めに出てからはずっと緊張した仕事から仕事への一日が過ぎる。夕方になるときまった時間に、下駄箱のところで上草履を下草履にはきかえて、電車通りへ出て来る。そういう時、ああ、きょうも済んだという安心と一緒に、又あしたも今日とおんなじ日が来るのかという何か物懶《ものう》い感情が湧くことがある。毎日、毎日。そして一年、二年。働いて行くということは避け難いことであり、その必要も意味もわかっているのに、時折働いている若い女の心を襲う何か空虚に似た感じ、これでいいのかしらと思う心持は、一体どこから来るのか。
若い妻の或る時の感情にも、これに似た陰翳の通りすぎることはあるにちがいないし、一見苦労のない日常生活の事情で、いろんな稽古事をやったり、シネマを見たり、踊ったりしている若い娘さん達の気分の上を
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