れるのだと云える。
 恋愛の生理がこの頃急速に人々の常識に入って来た。人生全体の生理を私たちはもっと知らなければならないと思う。忙しく一日を過した女が、夕方、労働の満足感のかわりに、そうやって過て行く自分の人生というものに疑を感じたとしたら、私たちは、どうせ今の世の中に云々と粗末に高をくくってはならない。その女の仕事の種類、働く時間、月給、同僚、恋愛と結婚との問題にまでふれて、その空虚は分析されなければならない。その諸条件と今日の社会との相互的な関係、及び、その関係において、手近に改良され得る種類のものと、永い歴史の進歩を必要とするものとが、はっきり見きわめられなければならないと思う。その上で、自分の生きる道をそれらの広いところから眺めて、避け難い部分に向っては真に美しい人間の堅忍と勇気とを発揮して負担しながら、猶且つ押しすすめられる一歩、半歩を充実して押して生きて行く。これが人生の生理である。私たちが生きて行くためには人間としての善意と同時に意志が入用である。
 心を追っかけることばかりをせずに、自分の心を素早くつかまえて、それを吟味して、整調し健康な場所に置くだけの、精神の運動神経
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