失し、人妻の「無能力」に陥ってしまう。そして、何か女性にとって不幸なめぐり合せが起るとそのことごとに結婚の条項において民法が規定している総ての不合理と片手おちとに苦しまなければならない。夫婦の愛にかかわる貞操の責任に関してさえ、妻は夫とちがった扱いに立たされている。夫に死に別れた時、戸主となるものは自分の息子であるか或は養子であるか、いずれにせよ、その時婦人は相続者の支配の下に置かれる立場になっている。徳川時代女は三界に家なしといわれた。それは、果敢《はか》ない女の一生の姿として今日考えられている。けれども、現在行われている民法の実質は、結局において今日なお女子を三界に家なき者として規定している。それぞれの婦人たちの生涯の努力と実力如何にかかわらず社会的に能力なき者と見なしているのである。
 今日民法における女子の不平等な地位を改善したいという激しい要求が現われているのは、全く自然なことであると思う。何年か前穂積重遠博士が民法改正委員会を組織して、『民法読本』という本も著し、民法における婦人の地位の改善のための努力を試みたが、明治以来の保守的な日本の支配権力は、この委員会の仕事を、蝸牛
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