まあ急ぐな」といった。
「返事は用意してある」
「言って見ろ」
「女がこの世で一番欲しているものは『独立』だ」
 すると巨人の顔色が変った。
「畜生、とうとうお前は本当のことをいい当てた。しかし、人間の男に、その答えが分る筈はない。誰かがきっとお前に智慧を貸したに違いない。言え」
 ガラハートは清廉潔白な騎士であるから、森の中で、赤い着物を着た恐ろしい女に出合って、その女が智慧を貸してくれたことを告げた。巨人はさも残念そうに自分の腿をなぐった。「ああ、あの畜生、それは私の妹だ。何年か前あの女をひどい目に遭わせて追放した。その怨みを今日晴らしたんだ」非常に落胆して、すごすご武器を引きずって森の奥へ退いて行った。
[#ここで字下げ終わり]
 これは中世の騎士伝説の中で圧巻的なエピソードだと思う。騎士達は礼儀正しく貴婦人達の前に跪き、その手に接吻し、その人の身に着いたものをマスコットとして試合に立ち向った。そして彼女達のために音楽を奏し、狩猟のお供をし、奪掠者から彼女達を護った。今日でも婦人に対して、礼儀と節度のある行為を、騎士的なという表現で言われている。けれども、婦人の社会におかれた地位
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