私たちの建設
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)軛《くびき》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)藁※[#「禾へん+皆」、第4水準2−82−94]《わらしべ》
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封建の世界
言葉に云いつくされないほどの犠牲を通して、日本に初めて、人民が自分の幸福の建設のために、自分達で判断し行動することの出来る時代が到達した。そして全人民の半数を占める日本の婦人も、過去の重い軛《くびき》から解放されて、明るい希望のある社会建設のために、これまでかくされていた自分たちの力を発揮することの出来る時代になって来た。それにつけても、今日私達が残念に思うことは、わたしたちが勇気をもって明日へ歩み出すために是非必要な日本の社会の歴史及びその歴史の中で、女性が負うていた役割について、事実を語っている歴史がほとんどないことである。これまでの歴史がどんなに歪められ、真実を蔽われていたかということは周知のとおりである。日本の社会を自分達の勤労によって育て上げ、その発展を担って来た人民である男も女も、自分達の祖先がどのようにして生きたか、社会はどういう筋道を辿って今日迄来たか、随《したが》って、未来はどう発展するのが合理的であるかということについての見透しは、これまでちっとも与えられなかった。
長い旅行に出発する前には、誰でも地図を調べる。それと同じように、私達が偉大な建設の道に発とうとする時、過去の歴史を正しく明瞭に理解し、自分達の実力を知ることは極めて意義深いと思う。
日本の女性の歴史は、先ず神話の中に現われている。天照大神という名は、後代の支配者たちが政治的に利用して、宗教的崇拝の中心に置いたが、現実に歴史をさぐれば、天照大神は古代日本の社会において、一人の女酋長であった。日本の石器時代の氏族社会は、まだ総ての生産手段とその収穫とを共有していた時代で、氏族の中では男も女も平等の権利を持っていた。つまり男も女も等しい選挙権と被選挙権とを持っていたし、女の酋長というものも、文献の中に多勢現われている。この時代は母系の制度が行われていた。一つの氏族内の母方の子供は、先任の酋長が男であろうと女であろうと選挙されればその地位を継承する
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