死に対して
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)□□□[#「□□□」に「(三字不明)」の注記]
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「めんどくさい、死ぬんだ」
 胸をしっかりおさえて居た手を椅子のひじかけの上になげ出して男は叫んだ。心で力一っぱいさけんだけれど声には出せなかった。
 そしてその死ぬんだと口ばしったことを又□□□[#「□□□」に「(三字不明)」の注記]の考るようにうなだれて自分の足を見つめた。いろいろなかわった射げ[#「射げ」に「ママ」の注記]きをうけてみだれにみだれ、高ふんしにしぬいた若者の心は今にも狂いそうになって居る。辛うじて、身もだえをしないばかり、じっとこらえて苦しんで居るのも運命だろうと男は思て居る。「死ぬんだ死ぬんだ」と心にくりかえして居た男はやがて青いかおをして、かたくなって居る自分の死がいのどんなに見にくいもので有ろうと思うと、どうにかしてその死がいを人目にかけない方法はなかろうかと思った。男の心の、その乱れた内にもまだ何分か、その本心、美術を貴ぶ心はのこって居た。
「女がさぞ………」
 フト男はまに
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