さされたように身をふるわせた。
「女がさぞ……」
このことばは男は死なせられるより情ない辛いことで有った。
彼の何も彼も包まずに自分を思て居る女の様子を思い出しては、その女のことは忘れたようにしてことわりもしずにポッカリねずみ一匹ころすより人の注意も引かずに死んでしまうことはいかにもみじめな様に思われた。
「私の生きていると云うことが貴方の生きる死ぬと云うことによってしはいされてるんですものネ」
思い入った、まじめな、ふるえた声で女の云ったことばを思い出した。
「貴方の生きる死ぬにしはいされてるんですものネ」
男は自分の死んだと云うことをきいたすぐあとにあの白いはりのある胸から彼の女の心の色のような紅の血をながして、自分の名をよびながらそのかよわい、はかない生を終る様子を想像した。その想像は心の一方でして居るので、又一方では「自分が馬鹿正直なんだ。あの女だってどうせ人間だし、そんなことが有るかないか死んだ自分にはわかろうはずがないんだから安心だ」
こんな人ずれのしたような小にくらしいようなことも思った。けれども命までもと誓ったあのしおらしい情のつよい女のどうして自分のみじめな
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