案内書をたよって、いろんな場所いろんな人の集るところへ出かけた。二人の書類についての面倒くさいかけ合い、本屋で素子の必要な或る本をさがし、なければ注文する用事、それから日用品のこまごました買い出し、そういうことが素子の机に向っている時間、朝子の生活をみたすようになった。そして何と面白いものだろう。この古くて全く新しい国が一九二〇年代の終りから三〇年にかけて経験した二十四時間は、食物でも紙でも衣類でもひどく品不足で、キャベジの四分の一塊りのために朝子はたくさんの道のりを歩き、長く列につき、なおあの五つの大キャベジも自分の一人前のところでなくなりはしないだろうかとはらはらした。バタやチーズがなくなった。それは農民が牛を殺してしまったからだというけれど、何故牛は殺されるのだろう。朝子は自分たちの生活の朝から夜につづくあらゆるそういう現象の意味を知りたくて読書した。
素子は何冊も古典や現代の詩を教師とよんだ。詩韻の解剖をやった。専門の勉学は進んだし、夏や秋の大きい旅行は素子のプランにしたがってやられ、同じように世界の古い背骨といわれる大山脈やテレクの川風に吹かれたのだが、朝子が街の喧囂《けん
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