申せません。お互いによいとか悪いとか動かないものがあるのではなくて、関係によってそれが起ってくるのです。お互いに憎まざるを得ない関係になれば、どんなによい人とわかっていても憎まざるを得ない。だから人間の関係というのは、遅れている社会関係を私達がはっきり取除けてしまいませんと、いかに心のなかで進歩的でありましょうと、心のなかにいかに希望をもっていてもそれは実現できない。またあなた方がいかに大言壮語なさり、私達があぶくをどんなに出してしゃべっても、お互いに結婚している人間ならば無能力であるということはいざというとたんになれば同じなのです。それをかえるために私達が集まってこういうようにお互いに話をいたしますけれども、人間性というものは徹底的な善人もありませんし、徹底的な悪人もないのです。もし徹底的な善人と徹底的な悪人しかないならば、この人類は一つの小説も書きません。なぜならばそれはよいことも悪いこともはっきりわかっているのですから。いろいろな関係で一生がかわり、無限の喜びと無限の悲しみが隣り合せにあるから、私達が自分の人生を真直ぐ見立てて参ります時に、この人と人との関係、つまり社会の関係にお
前へ
次へ
全32ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング