うことがわからない。そこで殿様は煩悶して家来を手打ちにしたりして乱暴するものですから幽閉されて、子供に殿様の位を譲って隠居させられてしまう。ところが隠居させられたら忠直卿の性格は一変して非常に寛大で愉快に笑う男になったので人はびっくりした。殿様はあんなに虫が強かったのにどうしたのかというわけで、殿様にあなたはどうしてこんなにおかわりになりましたかと聞いたら、「とにかく俺はやっとこれで人間になれたよ」というのが菊池さんの小説なのですが、この封建的な関係は人間を人間らしくなくするものなのです。それを私共はよく考えないといけない。自分達の生活をよくするために自分達の心のなかでいかに親切に考えてもその親切が届きません。人間の関係はこの社会にあるわけなのです。たとえばあなた達は慈善の深い方達だろうと思うのです。だけれども、お勤めや何かからお帰りになる途中で、いきなり人が出てきてハンド・バッグを掻っ払おうとした時には、あなた方が慈善深い方でもお渡しになることはないと思います。そのなかにはやってよいものが入っているのではなくて、やって悪いものがそこに入っているのです。だから人の心というのは抽象的には
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