私たちは、今日の日本の立て直しと、自分たちの生活改善の実際の必要に立って、その立場から政党を選んでゆくのが、一番正しいと知っております。
 例えば、今私たちの目の前に河があります。流れは急で、一人一人ではとても歩いて渡れません。うしろからは、飢餓という獣の大群が、刻々迫って来ます。生きるために、どうしてもこの河一つは越さなければならない。
 こういう危急の時に、爪先も濡らさず岸に立って、諸君、まず、橋を作る材木を出し給え。マァ、何の彼のいわず、材木だけは、ともかく僕にわたし給え。いずれ橋はかけてやると、筋の通った将来の計画も誠意もなしに演説している者を、誰が対手にするでしょう。これが、既成政党の姿です。
 このとき、ザブザブと胸まで急流にふみこんで来た男があります。その人は運べるだけの材木、俵、繩などを自分からもち出して、叫んでいます。オーイ、みんな、手持ちの材料をもち寄ろう。早く橋をかけてここを渡るんだ。人筏こしらえよう。女、子供は、先に渡すんだ。そう合図をしています。
 私たちは、その声に答えずにはいられません。すぐ男は肩組みして水に入り、弱いものは中にはさんで、働きはじめるで
前へ 次へ
全7ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング