ありません。モラトリアムで、国民の経済が救われそうに話されましたが、一ヵ月たった今日では、万事がまるで逆になって来ています。米、味噌、醤油のような生活必需物資の値段は、私たちが使えるお金に制限をうけてから、グッと三倍に上りました。勤めにゆくため、学校へゆくため、是非乗らなければならない省線、都電、バスなど、交通費もみんな三倍になりました。今の配給だけで、やって行ける家庭が一軒でもあるでしょうか。
今日、この有様の中でも、銀行家や金持ちは、コモかぶりを置いて暮しているという話をきくとき、私たち女の正直な心は、おどろいて目を見張ります。
そんなことがあって、いいものでしょうか。みんなが飢えて死にそうだというとき、それでいいものでしょうか。私たち女は、思わず自分の胸にしっかり我が子を抱きしめて、この恐ろしさから、命を守ろうとします。
こんどの戦争で、良人や父、兄弟を失った不幸な婦人たちは、何十万あるでしょう。まだ復員して来ない留守を、女の手で支えている健気《けなげ》な婦人たちが、何万人あることでしょう。その方々は、どういう思いで、今日を送り迎え、自分の投票を考えていらっしゃるでしょう。
前へ
次へ
全7ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング