て、中世の、騎士道の時代。騎士道と申しますのは、女の人に大変親切にする、強い者を挫き、弱い者をかばい助けるという精神によって貫かれたひとつの道徳でありますが、あなた方も、もし、そういうふうに、女の人に大変親切にやさしくやってくれたらと、憧れますでしょう。
 この騎士道に一つの面白い話があります。それもやっぱり伝説の中にあります。
 ある有名な、大変武勇の優れた騎士があった。そうしてあるときその騎士が森の中を歩いていると巨人があらわれて、騎士にむかって言うには「この世の中で、女が一番求めているものは何か」というのであります。
 騎士は、たくさんの人と戦い、わたりあい、恐ろしい武器ともむかいあったが、この難題だけは大変困った。女が一番この世の中で欲しているものはなんだ、と考えながら、森の中を歩いて行った。大変美しい姿をした夫であろうか。大変金持の夫なのであろうか。人情の清く美しい人であろうか。どうもわからない。一生懸命考えながら森の中を歩いておりますと、木の蔭から、真赤な着物を着た女の人が出て来た。そして「もしもし、あなたは日頃、勇気があって華やかでいらっしゃるのに、一体今日はどうしてそん
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