の園であるということになって、これが、聖書の基本になっているのであります。その楽園を失ったものとして人間の幸福というものが、話されているのです。けれど、この天上の楽園というものが特に幸福のシムボルとして考えられるについては、いろいろな問題があります。なぜかと申しますと、楽園というものの根本条件は、人間の平等ということです。すべての人々が他人の利益のためにただ働きをしないでも、人間として人間らしく生きて行くことの出来るだけの必要条件がそなわったところとして楽園が考えられているのです。ですから楽園の話が出来ましたときには、もう人間の社会は大分進化しており、そのころには、世の中に奴隷の労働があったということがわかります。他人から労働を強制され、自分の喜びもなにもなく、暮さなければならないという人々の大きな層があって、その上に、ごく僅かな人たちが働かないで、怠惰に安楽に暮していました。それで、苦しみながら働いている人々が、自ら自分たちの人間らしい権利を求める気持を、楽園というものの第一条件として、神の下に人間は平等であるという観念によってあらわしているのであります。
さらに、世の中が進みまし
前へ
次へ
全19ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング