うとしないで、重役に私を買えと書いたところに、通俗小説の卑俗な影響とその如き通俗小説がよって立っている現代社会生活の低劣で腐敗した面がまざまざと反映しているのである。
 パンテージ・ショウの娘たちは、レビューへ女が男になって出るなどというのは日本だけだと笑っているとその時も書いてあったが、私は、レビューの男役に若い娘の人気が集るとともに、日本の現代生活の矛盾とデカダンスとがあると思っている。
 先達って何かの雑誌に一九三五年型の映画女優という写真が出ていた。名を忘れたけれども二人の女優のどちらもカスリン・ヘップバーンをもっと鋭角的に直線的に削ったような顔だちであった。一見中性的で、或るかたさ、つめたさが漂っていながら、しかもどっかに激しい女の情慾を感じさせる種類の顔であった。女のようでない、だがそれを知っている者にとって彼女は実に烈しく、だが子は生まない女であるというような手のこんだ、享楽的な感覚の追求は、現代デカダンスの大きい特徴である。
 美しい女が男装したときに現れる変体的な魅力は、古くは有名なフランスの名女優サラベルナールの舞台姿である。デートリッヒは貧弱であるがタキシードを巧
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