−62]子女史の念頭を掠めさえもしなかったように見受けられる。
私娼の問題は、一朝一夕のセンチメンタリズムでは解決し得ない程複雑な社会的経済的根拠をもっている。※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子女史がもし一人の心敏き母であるならば、不自然な現代社会機構の中に成長する我が息子が、若者になった或る日、何かのはずみにこの不幸不潔な場処へやって来るような場合が起ったら、と或る悲しみと恐怖をもって、花柳病医の看板を見ることはなかったのであろうか。吉原の公娼制度が廃止されることは、健全な結婚の可能性が我々の生きる今日の社会条件の中に増大されたのではなくて、多額納税議員をもその中から出している女郎屋の楼主たちが、昨今の情勢で営業税その他を課せられてまでの経営は不利と認めたからである。
文芸春秋に、「男性への爆弾」という記事があり、山川菊栄、森田たま、河崎なつの諸名流女史が夫々執筆していられる。河崎なつ氏をのぞいて、他の二人、特に山川菊栄女史の文章は面白い。女史は「先ず手近から」男を観察し、女中の留守には自分の洗ったお茶碗を傍で拭き、得意の庖丁磨きをすることを恒例とする良人、労農派の総
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