キング中の記事と一枚の写真とがあった。
 説明をすれば、恐らく読者諸君も思い出されることであろう。東京ハイキング第九日、柳原※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子が私娼窟である玉の井へ出かけての記事と筆者の写真とが出ているのであったが、文章はこういう風に始っている。「女には全く用のない玉の井、お蔭様で参観一巡。ここには何百人かしらないが、とても大勢の若い女がうようよしているところ。その女の人達は、まあこんなところで何をしてるんだろう、毎日毎晩。――」「このかいわいお医者は花柳病ばかり。おそらく小児科も産婆も用のないとこなんだろう。こんなかの女は誰も子を生まない。だから天国は遙に遙に遠い青空だ」柳原女史は、「やあ来た来たむこうから」と不幸な女たちの容貌を見て「感情というものをすっかりすりつぶしちゃった」詰らぬ「兎に角目が並んでいて口がくっついて」いる「板みたいな顔」であると描写している。さすがにふっとホロリともして「もしかこの世がさながらの天国であって、生活に誰も屈託がないならばこの板みたいな顔の女たちは運転手の、会社員の、商人の、みんな女房で」世帯をもっているだろうのにと察しもす
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