において、代官神川平助を中心においている。神川平助の性格でもあるのだが、年齢が語る幾歳月の生活感情の習慣が、代官神川の農民救済の善意を独断なものにして、そこからの悲劇がかもされてゆく。その父の仕事を支持しながら、そのやりかたには、人間的に反撥する荘太郎を中心においたとしたら、この一篇の小説が、どう変化しただろう。先ずこの小説がもっとずっと書きにくくなり、まとまりにくくなることは必定である。主人公が父平助でなくて息子荘太郎であるということからは、作者が平助の側からその心理を叙しているよりもさらに描写に骨の折れる動的な葛藤、摩擦、若き精神の懊悩が小説の世界へ溢れでてくる。悲劇の最後で、失われる命が父平助のものであるにしろ、他のものたちのものであるにしろ、荘太郎がその小説で主人公であるとそうでないとでは全くちがうし、まして荘太郎の生命が直接そこにかかわるなら、悲劇の性格は一層の奥ゆきを持たざるを得ないであろう。
 作者はテーマのこのような二重の展開の可能のかくされている若き荘太郎を主人公とすることをさけた。或は避けたという気もなくておのずから主人公は自身の悲劇に対してより受け身な平助にきめら
前へ 次へ
全6ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング