の生活葛藤を描くところにあったことは明瞭なのであるが、少くとも黒須千太郎と魚住との人間的交渉がもう一歩ふみ込んで書かれていたら、最後の魚住の情熱的な雪中突進の動機も、読者の心にもっと真実性をともなって同感をよびさまし得たであろう。
 私はこの小説の作者が、感化院の園児の脱走という、最も特徴的な、心理的な生活の面を、もっと慎重に突き入って注目しなかったことを残念に思うのである。
 感化院の生活を強いられている少年が、そこにいたたまらず脱走しようとする。そして、やっと逃げ出すとすぐ警察でつかまる。すぐ、事務的にもとの感化院へ送りかえされる。そこで待っているのは、きびしい懲罰であろう。「新しき塩」の中に語られているように、全員に対してお八つぬきが行われ、その憤懣が、はけどころを求めて、脱走した少年を半殺しにするようなこともあるかも知れぬ。しかも、少年らは、逃げる、逃げようと欲している。感化され、馴致されることに、常に反撥している。その心持はどこから来るのであろうか。
 私は、自分が、狭い、臭い格子のうちで五ヵ月、半年と暮した間に、何人かそのような、言葉をかけてその心持をきいて見たい少年らの姿
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