を精神的によりどころを失った胤子が生活気分のよりどころを男のあらあらしい肉体に求めた結果として説明しているのである。ところで、魚住は妻の不貞に苦しみながら、一方では不良少年らの統御するにむずかしい性格によって引きおこされる事件、脱走だの集団的反抗だのととり組み、更に他の一方では、守屋が不貞をされている良人としての軽蔑をも示しつつ彼の教師という地位を危うくしようとする悪計と闘っている。魚住もある時期この錯雑した事情にまけて、受動的な頬杖をついたような気分で暮すが、日頃目をかけていた黒須千太郎をこめる集団脱走事件がおこり、折からの大雪で凍死するにきまっている千太郎を救おうという情熱によって振い立ち、情熱をもって一事を敢行しようとする人間の精神的高揚をよろこぶ感情の表現で、一篇の小説を終っているのである。
 小説としてのできばえからいえば、この作品は作者自身にとっても自信ある作とはいえないであろう。胤子の感情の必然性も十分描かれていないし、全体が説明的で、それもいきいきと納得ゆくように一人の人間の内的推移の跡を示しているとはいえないのである。
 作者の意企は、魚住を中心として、感化院の教師間
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