作品のよろこび
――創作メモ――
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)慰安《コンソレーション》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四〇年二月〕
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 生粋の芸術的な作品が私たちに与える深い精神の慰安《コンソレーション》はどこから来るものなのだろうか。芸術作品の底からさして来る真の明るさというようなものは極めて複雑な光りであって、浅い形で云われる筋の楽天性だの、作家の気質ののびやかさなどにだけかかっているものではない。もっと奥のあるものだ。感動をとおして心に迫る慰安は、立派な悲劇をよんだとき、一層惻々と私たちの精神をゆすってよろこびの感覚にまでたかめるではないか。いい芸術品のふくんでいるこの音楽のようなコンソレーション・人間苦と悲しみとの裡から猶響いて来るこの集注と発展の諧調はどこから生れるのだろう。(筋の上ではハピイ・エンドにすることがはやる今日の多くの小説について、或る人はそこに現代の文学の明るさを見るが果してそうだろうか。私には、そこに感覚として納得されないものを感じている。)

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