作家研究ノート
――『文学古典の再認識』の執筆者の一人として――
宮本百合子
一年ばかり前、ある雑誌にマクシム・ゴーリキイの今日までの生涯について伝記的な側から短いものを書いたことがあった。
私はその小さい仕事をしている間に、ゴーリキイの生きかたやゴーリキイと何かの形で不断の接触を保ちつつゴーリキイを発展せしめると同時に、そのことによって大衆のうちに蔵されている巨大な階級的芸術の可能性の見本をひき出して行った、ロシアの階級的組織の底力というものに深く感銘したことがあった。
後、暫くしてツルゲーネフの生活と作品との関係についてこれも短い一つの感想を書き、さらに『文学古典の再認識』でバルザックをうけもってから、私は自身の貧弱なこの種の仕事の経験を通じて、一つの意味深い印象を得ている。それは、偉大で才能ある過去、或は現在のブルジョア作家の一生とそこにのこされている文学的業績とから私達が遺産として価値あるものを獲て行こうと努力する場合、私たちの探求の中心は常にその作家の生活態度の中に現れ、従って各作品に鋭くふくまれて出ている諸矛盾の解明というところにおかれざるを得ないようになって来る。
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