非常に天分ある大作家でも、矛盾相剋するブルジョア階級の世界観の環内に止っているところにあっては、文学的練磨がつみ重ねられ、才能が流暢に物語り出すにつれ益々その作家に現れる矛盾は、その作家自身にとって克服し難い妥協なく顕著なものとなって来る。私はバルザックにおいてそれを痛感したのであった。
ゴーリキイの今日までの道を見ると、勿論複雑な矛盾は包蔵されていたのだが、彼の社会関係における態度と創作の実践を通じて仔細に見れば見るほど、私たちの前にはっきり現れて来るのは、ゴーリキイの社会的実践によってそれ等の矛盾が如何により高きものに統一され揚棄されて、今日の彼になっているかという点である。作家研究にあたって私に感じられたこの二様の方向は、さながらに二つの階級の本質であると、つきぬ興味を覚えるのである。
底本:「宮本百合子全集 第十巻」新日本出版社
1980(昭和55)年12月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第八巻」河出書房
1952(昭和27)年10月発行
初出:「レツェンゾ」
1935(昭和10)年4月号
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