火犯の息子であり、A村での農民組合組織者である与作などが、われわれの前面に押し出されて来る。
作者が、北のはずれの野地にかこまれた小寒村にさえも、生きている農村の人間のさまざまのタイプを描こうとして、馬喰兼太、阿部、サダのおふくろなどをとらえている意企は明瞭である。
然しながら、それらの個々の人物とその行動とをいきいきと生かし全篇の背景となるところのA村全体の生活は、どうも、まとまった現実感をもって読者の腹に入って来ない。
それぞれの人物と人物との横の関係についても、作者は説明しているのであるが、作中の人物と読者の感情に訴えてくる現実のものとして確《しっか》りからみあってつかまれていない憾みがあり、縦にA村全体を錯綜した利害関係によって喜愁せしめている経済情勢と各人物との関連を見ると、作者は当然ところどころでそれにふれているのであるが、まだ作品の大きさが必要とするだけの真実感をもって追求されていない。そのために、全篇を通じて章から章へと並列的にとび、読者の心に期待される急所をはずしたまま通りすぎているような印象を与えられるのである。
作者が二十章のところで、木村の一つの経験と
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