あったのだから。そのために、日本の社会発展の歴史のこまかい具体的な特徴について、いちどきに、はっきり理解することが不可能であった。フランス、イギリスその他ヨーロッパ諸国のとおり、日本も明治維新によって、ブルジョア革命を完成しきった近代市民社会になっているのか、あるいはそうでないかという点について、大論争が行われていた。山川均を中心とする労農派は、明治維新によって日本のブルジョア革命は完成された、とした。日本の社会の封建的な諸要素は消滅して、天皇制は本質的になくなっているとした。これとは反対に『無産者新聞』や雑誌『マルクス主義』による市川正一、徳田球一その他の人々は、明治維新の未完成を強調した。日本の社会機構に根づよくのこっている半封建的要素と天皇制支配の非近代性を指摘した。
日本の特殊性について、大切なこの論争がさかんに行われていて、まだ一定の決定を見ないうちに、ソヴェト同盟の社会主義の前進につれ、ドイツをはじめアメリカ諸国の革命的要因の高まるにつれてどんどん進むプロレタリア芸術の理論が、日本へも幅ひろい潮として流れこんだ。それは、すでに過去の歴史のなかでブルジョア革命を完成して、明
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