的天才の通力だけによる所産でないことが明らかになり、人類の歴史に数多い文学の傑作は、その当時の歴史の計らざる鏡としてますます愛すべきことを学んだ。一つの小説を、最もゆたかな奥行きと、人間生活の最も綜合的な角度で味う方法を会得したのであった。
文学の端初は、世界のあらゆる民族の生活において歌謡であった。原始の人類たちは、彼らのよろこび、悲しみ、勇躍にあたって歌い、踊った。文字はあとから、歌われた歌を記録した。だが、その歌よりもさきに、原始の祖先たちは、狩猟をし、獣の皮をはぎ、火をおこし、女は針に似た道具でその獣の皮や粗布を縫い合わせた。酋長を囲んで相談し、収穫と生産とについて部族のしきたりと定めにしたがい、習慣をもって生と死の現象を扱った。定めは、種々の場合に変革をうけ、そこには苛酷な制裁や、意外の寛大があった。集団して生きる部族の政治は、ひとかたまりに生きてゆくやりかた、としてはじまって、やがて階級分化を行った人の集団と集団間のいきさつとなっていった。生きてゆくやりかた、の根源には、その集団の定着した地域の自然的条件が重大に関係した。その意味で、生産の現実事情が、集団間の関係としての
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