いてこれまで教えられて来た。乃木夫人、東郷夫人の貞烈と節倹とは、これらの上流夫人が身を持するにかたく、常に木綿の衣類で通していられたということを、重要な心がけとしてとかれた。
酒と煙草を未成年者に各国とも禁じているのはなぜであろうか。酒ものまず、煙草ものまずということは男にあってやはり道徳的に意味のあることのように今日までは見られて来た。国民の体位向上の問題はやかましい関心をひきおこしているのであるが、酒、煙草に対する寛大さの結果は、体位をはたして向上させるものであろうか。国民消費としてひっくるめていえば、人口には女も入って、女の酒、女の煙草も、これまで内務省や文部省が保健と精神規律の上からそれを眺めていたとは異った角度でながめられようというのであろうか。
銃後の婦人に求められている緊張、活動とその性質と、これらの消耗品との性質を対比したとき、私たち女の胸に快き納得を実感することはいささかむずかしいのである。晩秋に芳しいさんま[#「さんま」に傍点]を、豆にかえて、戦場の人々を偲びながら子供らに食べさせる物価騰貴時代の主婦の耳に、酒、タバコ、絹は十分につかえと聞いても、何かそこには日
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