である。
近頃のデパートの飾窓を眺めてみると、日本服の染模様が実に近年にない飛躍をしていることに誰しも心づく。いずれも緑、黄、朱、赤、と原色に近い強烈な色調で、桃山時代模様と称される華美、闊達な大模様が染められている。この着物をきて、さらにどんな帯をしめるのであろうかと思わずにいられない華やかさ強烈さである。ひところ、一反百円という女物の衣類は、ごく特殊なものにかぎられていた。ところが、昨今は珍らしくなくなった。百円をこしているものも珍らしくはない。まことに、これらの流行色調は絢爛をきわめ、富貴をほこるものであるが、これを見る私たちの一方の目は、冬に向うのに純粋の毛織物は十一月から日本で生産されない。メリヤスもなくなる。木綿も節約せよ。食糧も代用食に訓練しておけ。子供の弁当に大豆類を多くせよ、などの警報にひかれている。今日の日本の財政のまかない手である蔵相はラジオで放送して、銃後の民の心がけというものをとかれた。輸入品の節約をするように。国産品も節約をするように。だが酒、煙草、絹はどうか遠慮なくつかうようにと。
私たちは学校の家事でも、節約ということの目標を、酒、煙草、絹の衣類にお
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