の帰りなのだ。
 産業別労働組合が共同資本で建てている新しい共同住宅には、きっとその第一階に托児所がある。けれども元からある家のどれにも托児所が附属しているとはきまっていないから、工場へつとめる夫婦は小さい子を工場の托児所へ、役所勤めの男女は区の托児所へ、いずれも朝勤めに出しなに、抱いたり手をひいたりして連れて行く。
 八時間働いて退けしなに親たちは托児所へより、それからめいめいの坊やと帰途を充分楽しみながら家へかえってさて夕飯ということになっているのだ。
 話の例としてひとつ「赤い糸紡織工場」の托児所をのぞいて見よう。(ここには七百人からの婦人労働者がいる。)
 工場を出て、鋪道を半丁ほど来ると、ロシアらしい木の柵にかこまれ、白樺が庭に生えた煉瓦だての小ざっぱりした建物がある。
 トントンとのぼる石段の入口が二つある。一つには「乳児入口」、もう一つには「学齢以前児童」と札が出ている。
 入って行くと、白い上っぱりを着て、頭も白い布《プラトーク》でつつんだ姆母さんが出て来る。お客にも白い上っぱりを着せ、それから始めて内部を案内してくれる。托児所はキット一人の小児科医と数人の姆母さんと炊
前へ 次へ
全17ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング