砂糖・健忘症
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)靡《なび》き

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)子供の生きてゆける場所[#「生きてゆける場所」に傍点]の
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 年の暮れに珍しくお砂糖の配給があった。一人前三〇グラムを主食三三グラムとひきかえに、十匁を砂糖そのものの配給として配給され、久々であまいもののある正月を迎えた。お米とひきかえではねえ、と云いながら、砂糖を主食代りに配給されることについておこった主婦はなかった。
 きょう新聞をみると、政府は主食代用を主な目的としてフィリッピンその他から砂糖を五十五万トン輸入することになったと出ている。
 いまの東京の、疲労のはげしい毎日の生活で、疲れのやすまる甘いものがこうして段々ヤミでなくて一般の家庭にもゆきわたるだろうと思えば、暗い心持はしない。それにつけても、わたしたちは、戦時中のことを思い出さずにはいられない。人民生活に砂糖の消費が制限されるようになって来て、遂に全く砂糖なしになって来た頃、いろいろな栄養学者、医者たちは、あれほど口と筆との力をそろえて、砂糖が人体に
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