及ぼす害について宣伝した。砂糖は骨格をよわくする。砂糖は血液を酸化させる。砂糖は人間を神経質にする。実に砂糖の害悪を強調した。一方、勤労動員されたすべての少年少女が、何よりほしがったのは甘いものだった。肉体をこきつかわれた疲れを、せめて甘いものでいやしたくて、「上品」だった筈の女学生たちは寄宿舎で、ぼた餅やあんころの話に羨望した。甘いものも食い放題だし、ということは、はっきり特攻隊や予科練へ若ものをひきつける条件の一つだった。
米代りの砂糖が配給され、フィリッピンからの砂糖の話をよむとき、わたしたちは、砂糖一つについても、あるべき社会的な責任というものについて、政府と、栄養専門家に答えて貰いたい心持がする。もし、あのとき、あんなに砂糖の害悪だけを主張したことが科学の真実なら、主食代りに砂糖をなめさせることは余りひとをばかにしたことではないだろうか。レールをとりかえる金さえないのに、害悪があるという砂糖を、何の義理で買いこまなくてはならないというのだろう。もしまた、適度の砂糖は人間の健康に必要なものであるから、というのならば、つい先頃まで砂糖の害だけを云いたてて、科学的に国民保健上最低
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