砂丘
宮本百合子
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こまかいかげろうは砂の間からぬけ出したようにもえて居て海の色は黒いまでに蒼い、水と空と空の色、そのさかえからポッカリういたような連山の姿、いかにも春らしい、たるんだような、なつかしいような景色である。
風は有っても砂をまきたてるほどでもないので丁度いいかげんにネルの躰を吹いて行く、こののどかなうきうきした娘のような景色の中を恥かしいほど重っくるしい陰気な心持で渚づたいに、別荘のわき、両方から砂丘がせまって一寸したくぼい形になって居るそこへ私は向って行く、悲しみと名づくべきほどのものでもなくて居て又たえがたい悲しさとなやましさに自分のつまさきばかり見て居た私の目に急にその二つならんだ一片の砂丘はいかにも大きなおかすことの出来にくいもののように見られた。それを見た時丁度、そうっと他人の懐中物をかすめたすりが通りすがりに監獄の垣を見てふるえるように私の心と躰は何とも云われない悪寒とふるえをおこした、けれども、なきながら
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