「なんだい、なくもんか男だもの」と云う子供のそれのように強いてのつけ元気にザクリザクリと心地の好い砂の音にそれをわすれるようにと思って歩いた。段々近よって段々いやな思をさせる砂丘のはじから中の窪地を見ると、居た女は! 今日逢って何を云われるのか、自分に対してどんな考を持って居るか、
 こんな事は、一向考えずと好い事なんだ、と云うようにのんきらしく棒のような足を二本つんと前に張ってコーモリを立てて日にてらされる右の方をかばいながら海を見て居る。
 私はそこに立ちすくんだようになって、そのたるんだ皮膚や、考のないことを明らさまに表して居る眼、口元などを一わたりズーと見つめた後今までの事をズーと考えて見た。私はあの女の無邪気にハキハキとして居て男気が有り、わり合に考も有って男の手管にまかれるような事は一度もない、
 と云う事をきいてまだ言葉も交わさない内、まだかおも見ない内から少なからず動かされ、或る特別なような好奇心に動かされて居た。
 始めて彼の女を□[#「□」に「(一字不明)」の注記]けた女、今までに一辺も見た事のないような張の有る、力のみちみちた、はきはきした口振の彼の女を見てどんな
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