によろこんだ事だろう。
 それから、妙なわけになって居るが段々その力つよさと男気の有るのが消え始めた。それでも私は、自分のたよりにするものが出来た気の張りのゆるんだため、あの心地好いツンツンした素振も、ハキハキした口のききかたも忘れてしまったものだろうと少しは喜びも交って心の中に育って居た。それから後も、その人が変ったようになってからも度々あったが別にそれほどいやな、毛虫にさわるような心持にはならなかった。それが今日、今、たった今、あの女のかおを見ると、あのだらけた皮膚の色と、いくじなさそうな様子とが毛虫よりいやに思われて来た、そうし敵でも見るように、そのかおの筋肉の一寸した動揺でも見のがしてなるものかと云うようにそのかおを見つめて居た、心の中では又ささやいて居る。
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いくら私をどう思ってたからと云ってああまで馬鹿にうすのろになるはずはない、却って自分がどうか思ってりゃあ、よけいに気位の高いつんとした様子をして居るものだ、それがあの女は一年も半年も立たないうちに馬鹿になりうすのろになってしまった。かざって居たのだ、
だまして居たのだ、こっちがはかられたのだ!
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