だまって顔を見合わせて居る、女の小ばなにはあぶらがういて居てまだどこかに若々しい心が有ることをしめして居る。
「それでこれから先御前どうするつもりなんだい」
「どうするつもりって……そんなにハッキリなんかわかって居やしないけど」
「好い旦那でも見つかったんかい」
「また、旦那旦那って何故そう御云いなさるんだろう。そんなものなんかあてにしてやしませんやネ」
 この言葉だけは昔の勢をのこして居るようにハギレよくひびいた。
 少しでも女の様子に昔の有様の見えたと云うことは廃坑から又、新らしい石炭の層を見出したその時よりも嬉しい胸のおどる心地がして心からゆすり出るようなほほ笑みを私は口にうかべながら、
「マア、珍らしい事だ、よくそんな今までにないハッキリした口調に私のよろこぶような気持の好い事を云って呉れたネ」
「貴方って云う方は妙な御方だ事、私の云う事で私はこんな事はと思ってムカムカして云う口調を貴方はよろこんで居らっしゃる、だから、まるで私の嬉しがる事とあべこべの事をよろこんで居らっしゃるんですネ」
「世の中の苦労を、かみしめたものは、御前の思ってるよりあべこべの事をよろこぶものなんだ、そ
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