味で、文学との関係をとりあげたのはプロレタリア文学であった。プロレタリア文学は、勤労者の広汎な生活を文学にうつしつつ、同時に、大衆そのものが内蔵している文化と文学との新たな発展力、その開花を前途に期待した。作家と読者との関係は単に需要者・供給者の関係ではない肉親的交流において見られたのであった。
 再び文学の大衆化が文壇に論ぜられるに当って、大衆の文化的発展の諸要因が無視されると共に、作家との関係では、作品の給与者、被給与者としての面が強調されていることは、実に時代を語っている。
 かようにして文学は批判精神などに要なき民衆の日常性に入らなければならないと云われる他方では、殆ど時と人とを同じくして、「大人の文学」という提案がされた。従来の文学青年的な純文学、神経質、非実行的、詮索ずきな作家気質をすてて、非常時日本の前線に活躍する官吏、軍人、実業家たちの生活が描かれなければならず、それ等の人々に愛読されるに足る小説が生れなければならないとする論である。「大人」という言葉も、文学青年的なものに対比して出されたのであろうが、そのものにおいて多分の文学青年ぽさを印象づける。大人の文学と云う場合
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