府当局の意嚮《いこう》などが、外務省文化事業部へ反響して、先ず国際文化振興会が半官的な組織で成立し、つづいて島崎藤村氏を会長とする日本ペン倶楽部が組織された。
 文学における能動精神、新たなヒューマニズムの気運は、フランスに於てこの年の六月「文化擁護国際作家大会」を開催させた。会議はパリで開かれ、参集国は日本を除く二十八ヵ国、代表者は二百三十名。まことに興味ある次の如き議題で世界的に討論された。
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一。文化遺産(伝統と発明。文化的価値の振興と保護。文化の将来。)
二。ヒューマニズム(ヒューマニズムと民族性。ヒューマニズムと個人。プロレタリア・ヒューマニズム。人間と機械。人間と閑暇。作家と勤労。)
三。民族と文化(民族文化間の関係。民族文化とヒューマニズム。民族文化と諸階級。諸階級と文化。民族主義対諸民族の現実。戦争と文化。少数民族の文学的表現。植民地諸民族の文学。読者大衆と玄人[#「玄人」に傍点]。孤独者と先駆者。翻訳。)
四。個人(作家と社会との関係、対立か一致か。自己の属する階級の表現としての個人。)
五。思想の尊厳(芸術家の自由の本質。表現の自由。検閲の直接的並びに間接的形態。作家と亡命。非合法文学。)
六。社会に於る作家の役割(公衆との関係。ソヴェト文学の経験。文学とプロレタリア。文学と青年。文学の批判的価値。文学の積極的価値。社会の鏡及び批判としての文学。)
七。文芸創作(社会の変化が芸術形式に及ぼす影響。連続価値と解体価値。文学的生産活動の諸形態。文学の社会的役割。タイプの模倣若くは創造。主要人物の形式。表現の新しい技巧。)
八。文化擁護のための作家の行動。その統制。
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[#地から3字上げ](以上『文化の擁護』より)
 文学は本質において民族的であると共に人類的であり、たとえどのような意図の上に行われても、ともかく日本文学が翻訳され海外紹介されなければその目的を達し得ないところに文学におけるソリダリティを語っている。日本ペン倶楽部の組織が支持された心の過程の内には自然その流れも加っているのであったが、「しかし同会が日本ペン倶楽部として生れ、国際ペン倶楽部日本支部と名乗るに至らなかったことは微妙な国際関係の現状を示唆するものである。」(『文芸年鑑』)
 国内における文化統制の具体化は、国際文
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