小説は、果してこの急激な底潮を感じさせる時代の空気と動向とを芸術化しているであろうか。
文学の仕事に従事するのは何時の時代にもそれぞれの階級の知識的な分子である。ブルジョア文学はブルジョアのインテリゲンツィアによって作られて来た。プロレタリア文学は、日本の事情の下ではその出生の階級を揚棄しようとするインテリゲンツィアと勤労階級の中からの少数の知識分子とによって作られて来たのであった。日本の左翼運動の退潮はインテリゲンツィアを或る意味で全面的に動揺させ帰趨を失わしめた。文学の仕事に従うインテリゲンツィアにもこのことは強烈に作用している。しかも日本には日本文学の伝統として、近代文学の確立と同時に文学者は一般官吏、実業家、軍人等の社会活動と全く切り離された別個の道或は並行の道或は対蹠をなす道を歩かざるを得ない事情に置かれて来たという事情がある。
周知の如く近代国家としての日本は独特な発展の過程をとり所謂《いわゆる》開化期の文化の自由民権的傾向というものは明治二十三年国会が開かれると同時に一種の反動期に入り、今日とはその質を異にするが、官僚「官員さん」の横行時代を現出した。日清、日露の両戦
前へ
次へ
全26ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング