ず、寧ろ、多難な文学の道をこれまでの何年間か努力をつづけて今日に到っているという作家への、慰労賞めいたものとなった。文芸懇話会賞は、その会の性質が半政治的であったから、詮衡に当っても、文学作品としてのめやすに加わる様々の文学以外の条件があって、内部の紛糾は世人の目前にもあらわれた。
事変以来、日本の文学の姿は実に複雑となって来ている。例えば日露戦争の時代、藤村の傑作の一つである「破戒」さえ出版出来なかったような有様に比べて、今日の小説の隆盛はどうであろう。農民文学懇話会、大陸文学懇話会、生産文学、都会文学懇話会というものまでも、故小橋市長によってもくろまれた。芥川、池谷、千葉賞のように、故人となった文学者の記念のための文学賞ばかりか、農民文学には有馬賞というのがあり、中河与一氏の尽力によって成立してその第一回受賞者は中河氏であった、大倉出資の透谷賞というのもあるようになった。
今度の事変が、戦争として到達している複雑な性質は、日露戦争時代のような素朴さをふりすてて、文化、文学の面にも深刻に波及している。諸生産が統制のもとになされつつあることは、作品をその生産物としてもっている文学の
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