いばかりか、青年たちの生活もその内幕に入って見ると恐しいほど程度が低い。酒を飲むことと、夜遊びが唯一のたのしみで、本さえ手に入れることはできない。うっかり本を読むとなまいきだとか、変りものだとかいわれるばかりでなく、東京から『改造』をとって読むようなものは、村の駐在の注意人物とされる。自分はもっと光明のある生活がしたい、そのために、東京に出たいがよい方法はないかという相談である。解答者は、たぶん山田わか女史であったと覚えているが、女史はその青年の都会へのあこがれを丁寧に訓戒し、都会生活の醜悪であることを話し、あなたの使命は東京へ出ることでなくて、村に残り、自然の美を理解して新鮮な空気をたのしみながら、自分の周囲に清い社会を作って行くことであると答えられてあった。
その時、私の心に強い一つの疑問が起った。それは、この青年の他に何十万人という同じ心の青年がいるであろうが、はたしてその中の一人でも山田女史の解答で満足し得たかどうかということである。東京にばかり暮すものには、想像できないほど農村の文化水準は低く、農民は楽しみの少い暗く苦しい日常を送っているのである。農村の恐慌は農民から新聞さ
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