な源氏物語は藤原時代の封建貴族文化の精華であるといわれているが、あの作品は同じ藤原時代に文盲ではだしで一度び飢饉が来ると道ばたに倒れて飢え死んだ庶民のいかなる心持ちをも反映してはいないのである。文字そのものさえ、貴族に独占されていた。現在の中国がそうである。一九一七年までのロシアの農民の生活がそうであった。土地を独占していた貴族は文化を独占したし、工場と機械とを所有しているものが今日では文化の機関をも独占している事実はもっとも分りやすい形で今日のわれわれの生活の中に現れている。たとえば非常に大組織で雑誌の出版をおこない、月に数百万部の雑誌を売っている講談社はそれだけの雑誌をこしらえ得る機能を独占していると同時に、それらの雑誌によって、支配的階級が拡げようと欲するような傾向に文化を独占しているのである。
今日われわれの周囲を取りまいているものは以上によってあきらかなように、資本主義文化であるが、この資本主義文化そのものの中に、過去の封建的文化の残りものがあるし、本質的にブルジョア文化とわけることはできないが、さまざまの点で特徴を持っている小ブルジョア的文化があり、さらに農民の文化及びプ
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