フために動員して、強固に民主的立場を保ち戦争反対の見解をもっていると目された作家、思想家を投獄した。
一九四六年一月、ジャーナリズムが戦時色を払拭して再発足をはじめたとき、そこに面白い現象が現われた。編集者たちは、戦争協力者でない作家を発見することに非常に困難した。同時に治安維持法廃止以前のプランにおいては民主的作家の作品を載せる自信もなかった。苦しまぎれの一策として一斉に老大家である永井荷風や正宗白鳥などの作品を載せた。これらの人々の作品は、民主的要素をもっているともいえなかったけれども、軍国的でないことは明瞭であった。
永井荷風は、フランス文学の流れにたち、一九〇〇年代初頭の日本の半封建的な社会的空気に反撥しつつ、彼の抗議をデカダンスと孤独の中にとかしこんでしまった老作家である。正宗白鳥は自然主義作家として出発し、人間の醜悪さを暴露する作品を書きつつ、その人間の醜悪の社会的要因を探求しようとしなかった。彼は対社会的にはニヒリスティックであり、無感興な表情を保ちながら自分個人の生活を楽しむことについては卓抜な老作家である。永井荷風と正宗白鳥の上には、日本に芽生えた近代の精神が、あ
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