[マニズムと理性がある。それは軍部が絶対に好まないものであった。新劇の俳優たちは、何年間も自分たちの舞台を持たなかった。新派と合同したり、あるいは映画に出演したりして苦しい彼等の生存をつづけた。
 新劇が蒙むったこの傷は、新劇に理性があり人間性があるだけに深い影響を持った。そしてその傷はまだ治っていない。
 その上、興業資本がこれらの新劇人たちの舞台を制約している。彼等は自身の小劇場を焼かれてしまったから。日本の新劇にとって、伝統の受けつぎ手である演出者土方与志は、新劇復活の第一歩としてイプセンの「ノラ」を上演した。つづいて、オール東宝の音楽・舞踊を綜合的に活用して、シェークスピアの「真夏の夜の夢」を上演した。これは、変化に富んだ楽しませる舞台効果によって商業的にも成功した。
 新協劇団が公演したトルストイの「復活」、村山知義の監督による「破戒」なども経営的には成功した。しかし演劇的見地からはそれぞれに問題を残している。
 青年演劇人連盟が上演したドストイェフスキイの「罪と罰」、俳優座の公演「中橋公館」(真船豊作)、文学座の「女の一生」(森本薫作)などは一九四七年度の注目すべき仕事とさ
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