に日本国内にも反映し、社会党左派の一部がとったその態度は保守的政党の嘲笑を買ったばかりでなく、社会党左派そのものの内部から激しい批判を受けた。
片山哲を首班とする三党連立内閣はこのような悲喜劇のうちに成立した。自由党は野党になった。彼等の目的は野党として大衆の間の保守勢力を拡大するところにある。
日本の民主化の現実の過程では人民的な基礎に立つ民主戦線の結成を拒否し勤労大衆の急進化を恐れつつ、その反面には自党の政策として社会主義的建設をかかげている片山内閣が、吉田内閣の悪政の結果、山積している重大課題をどう解決したろうか。
日本ではじめてクリスチャンであることを政治家の人間的プラスの面としておしだしたのは片山首相であり、その何人かの閣僚たちであった。クリスチャン首相が第一声としてインフレーションに苦しむ勤労大衆に要求したのは耐乏生活であった。つづいて六月十一日に八項目から成る「経済緊急対策」を発表、同十九日に業種別平均賃銀千八百円ベースを公表した。森戸文相と笹森国務相によってとり急ぎ「新日本建設国民運動要領案」が発表され民間各方面の代表者に協力を求めた。七月には経済安定本部の「経済実相報告書」を発表した。引き続き生活必需品の流通を適正化するために公定価格の引きあげが行われた。
千八百円ベースは四・二人世帯の家族を基準としてすべてを公定価格で算出した数字である。現実に公定価格の配給食料で生命が保てるのは辛じて三分の一ヵ月である。しかも日常消耗品のすべては配給では間に合わない。せっけん、紙に至るまで。配給を円滑にするためとして行われた公定価格つり上げは、日常生活に大きい部分を占めているヤミ物価の上昇をもたらした。千八百円ベースというものがインフレーションの現実の中でどんなに非実際的な数字であるかということは一九四六年六月頃までの世界の生計費指数の統計をみても分る。
世界生計費指数[#「世界生計費指数」はゴシック体](国際連合調)一九三九・一―六=一〇〇
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[#行項目名のタイトル]年月
[#列項目名は2段組、1段目]アメリカ イタリー 日本 フランス
[#列項目名2段目は1段目をそれぞれ2分割]綜合 食糧 綜合 食糧 綜合 食糧 綜合 食糧
[#1行目]一九三八年平均 一〇二 一〇三 一〇〇 一〇〇 一一一 一一一 …… 九三
[#2行目]一九四一年平均 一一八 一三一 …… …… 一五二 一五七 …… 一三九
[#3行目]一九四五年平均 一三〇 一四七 …… …… …… …… …… 三五一
[#4行目]一九四六年三月 一三一 一四八 二、三〇六 三、二四七 三、五九〇 四、五〇〇 …… 四四八
[#5行目] 六月 一三五 一五四 二、三二四 三、三三七 四、〇〇〇 五、一三〇 …… 五三八
[#底本ではリーダー(……)はダッシュ(――)]
[#ここで表罫囲み終わり]
東京の自由およびヤミ物価指数を調べてみると次表の通りになる。
東京物価指数[#「東京物価指数」はゴシック体](東京商工会議所調)
昭和二〇年一一月六日=一〇〇
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[#項目名] 食糧 衣料および日用品
[#1行目]一九四五・一二月 九八・二 九七・六
[#2行目]一九四六・七月 一六五・二 一三七・八
[#3行目]一九四七・六月 三四八・七 三二五・四
[#ここで表罫囲み終わり]
ナチスの侵略によって民族生活を破壊されたフランスにおいてさえ一九四六年の六月の食料品指数は六倍弱の高騰であり、ファシズムの犠牲となったイタリーにおいて食料は三〇倍弱であるのに、日本は五〇倍弱に騰《あが》っている。以来今日まで日本の物価指数は三つ四つの段階を経てとびあがりつづけている。
一九四七年九月の予定的な計算でも千八百円基準の生計費は一ヵ月の公定価格による支出一、三五一円九八銭、自由購入による支出一、六八一円一二銭となって合計三、〇三三円一〇銭となる。したがって家計失調は日本において全般的な状態で、この事情は業種別勤労者賃銀表と見くらべると深刻な日本の全人民層の生活難を語っている。一九四七年七月統計局調査によればもっとも収入の高い軌道労務者男子一ヵ月三、七二六円五、婦人一、九七八円であり、婦人勤労者のもっとも多い紡績工業においては男子労務者一ヵ月一、四五五円六、婦人六〇九円である。職員は待遇が差別されていて幾分か増額されているけれども男子労務者と婦人労務者との間にある殆ど二対一のひらきは総《あら》ゆる生産場面の男女差別待遇としてあらわれている。日本では戦争によって全人口中三百万人の女子人口過剰を来している。過去のあらゆる時代に経験されなかったほど婦人の経済的独立の必要はつよく一家の経済的責任の負担が増大されている。改正憲法の上で男女平等がいわれ、平等の選挙権
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