フために動員して、強固に民主的立場を保ち戦争反対の見解をもっていると目された作家、思想家を投獄した。
 一九四六年一月、ジャーナリズムが戦時色を払拭して再発足をはじめたとき、そこに面白い現象が現われた。編集者たちは、戦争協力者でない作家を発見することに非常に困難した。同時に治安維持法廃止以前のプランにおいては民主的作家の作品を載せる自信もなかった。苦しまぎれの一策として一斉に老大家である永井荷風や正宗白鳥などの作品を載せた。これらの人々の作品は、民主的要素をもっているともいえなかったけれども、軍国的でないことは明瞭であった。
 永井荷風は、フランス文学の流れにたち、一九〇〇年代初頭の日本の半封建的な社会的空気に反撥しつつ、彼の抗議をデカダンスと孤独の中にとかしこんでしまった老作家である。正宗白鳥は自然主義作家として出発し、人間の醜悪さを暴露する作品を書きつつ、その人間の醜悪の社会的要因を探求しようとしなかった。彼は対社会的にはニヒリスティックであり、無感興な表情を保ちながら自分個人の生活を楽しむことについては卓抜な老作家である。永井荷風と正宗白鳥の上には、日本に芽生えた近代の精神が、あまり重すぎた半封建的社会の力にむしばまれて、旦那の気むずかしさに定着してしまった悲劇がみられる。ジャーナリズムが途方にくれたようなこの時期を貫いて、日本には民主主義文学運動の強い流れと、それに並行して日本の重くるしい封建の伝統に対して闘おうとする文学の潮流があらわれた。
 民主主義文学運動の中心は、新日本文学会であり、機関誌『新日本文学』のほかに四つの文学的刊行物を出している。新日本文学会は日本現代文学の進歩的な卓越した作家を少からずその会員としている。評論家として蔵原惟人そのほか活溌な数人の活動家・作家としての中野重治・徳永直・佐多稲子・宮本百合子・豊島与志雄、詩人では壺井繁治・岡本潤、その他戦後に活動しはじめた若い作家、評論家、詩人の多数がある。一九四七年度の注目すべき民主的作品のほとんど全部は、この会のメムバーである作家・評論家・詩人たちによって生れた。新日本文学会は、専門家のために多方面な研究会をもっているほかに、一年に数度文芸講演会を開き、地方の支部を中心に文学巡回講演も行っている。演劇、音楽のグループなどと共に勤労者の間に、文学のグループもどっさり出来ている。この文学グルー
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