゙の科学の歴史に一つの大きな輝きである。文化は人類の富ではないであろうか。商品以外の価値をもつものならば、それにふさわしい人類的処理が期待されてよいと信じる。
 文芸家協会や日本ペンクラブの活動は、今の日本の文学全体を推進させるために必しも有効に働いていない。戦争中、文学報国会として戦争協力した文芸家協会は、再出発後も理事会を目下エロティックな文学で活躍している数名の通俗作家によって独占されている。先般、森戸辰男の文部大臣賞の選を文芸家協会がひきうけるかどうかということについても、理事会は広汎な輿論に計らず、良心的な作家が辞任した。日本ペンクラブは国際的文化組織の中でふれているとおり、クラブ資金調達のための現代日本文学作品集から、中野重治、徳永直、宮本百合子の作品をオミットした。民主的な婦人作家佐多稲子は、「現代文学の紹介という点からあんまり不自然に思えるから」という理由によって、自身の作品の収録されることを留保した。

        2 映画・演劇

 日本映画 日本の映画政策はフィルムの生産状態が悪いために根本的な阻害を受けている。
 映画製作会社は一社の最低量七〇万フィートの三分の一にも足りないフィルムを、出来るだけ収入の多い方法で使用しようとしている。そのために各社とも儲の多い劇映画の製作に熱中している。その劇映画も日本映画の芸術的水準を引きあげてゆこうとする努力は僅かに東宝の製作品の一部で試みているだけである。他の会社は一般の趣向の最低を狙って入場券の多く売れることだけを考えている。
 このフィルム欠乏状態はよい芸術映画製作をはばんでいるばかりでなく、日本の民主化にとって最も必要な啓蒙的文化映画の製作をほとんど不可能にしている。新しい教育のために子供たちのために利用されなければならない教育映画など殆ど作られる余地がない。真面目な日本人のすべては特にこの点について心配している。
 フィルムの欠乏と興業資本の掣肘にかかわらず日本映画の水準を高め、その独自性を確立することについて真面目な製作者たちは熱心な努力をはじめている。これは外国映画の輸入につれて起った当然な現象である。一九四六年度の記念的作品は、日本ニュース社で製作された「君たちは話すことが出来る」であった。この映画を見た人は、すべての日本人が口かせをはめられ、手かせ足かせをはめられ、生命さえおびやかさ
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