しての無力感とに於て、明らかな時代の感情の色調を帯びている。
 あらゆるものが強い旋回の裡に動きつつあるのがこの日々なのだが、一般は果してそのように自分たちを旋回させている現実の理由や方向や意味を客観的なひろがりの中でどこまで掴んでいるであろう。現実のそれぞれの局面に付せられている名称や説明は、それとして現実の実際の解明と等しいものではないことが生活感情としては何となし直感されている。だがその現実の二重焼つけのような映像に対して、どんな態度かと云えば極めて心理的な麻痺の状態におかれているところがあると思う。

 生活感情の不安定さをつきつめず、おどろきを失い、その日暮しになって、その不安定さから現象としてはあらゆる興行物や飲食店の満員、往来の夥しい人出となって動いている。本がどんどん売れ次から次と読まれてゆくことのうちにやはりこの心理がある。現実の動きを何かの意味で支配する生活の感情から本がよまれようとするよりも、現実の力に背中をドンドン押されて止まることの出来ない足を前進させながら、視線は次々飾窓をも見ている、あの雑踏の中の神経が今日の読者の神経となっていると思える。
 読者一般をそ
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