た言葉でそんなに強烈なショックを感じる作家が今日に在ろうとは思いもしていなかったのである。おはぎでも拵えるように、一寸いたずらしてと表現する娘さんへよりも、私としてはデカルトにさかのぼって近代フランス文学を研究すると云っているその語りての、今日現実のものとしている文学への感覚からショックをうけた。
今日の日本では所謂《いわゆる》知的な読者でさえ、作品と作家の生きかたというものの間にある必然について全く感覚を喪《うしな》っている。これは、どういうことなのだろう。
三
この二三年らい日本のあらゆる事情が激変しているが、特に昨今は物価の乱調子な気ぜわしない上り下りや様々の必需品の不揃い不安定な状態も、切実に生活感情のうちにそのかげをうつしているのだと思う。乾物屋が店の玉子の値段がきに四十とだけ書き据えて、あとの何銭というところに紙をはりつけ次の変化にそなえている刻々の心理は、市民生活のあらゆる部門に亙って存在している。来年中等学校へ入る子供たちはどんな試験をうけることになるのだろうかと思っている昨今の皆の感情も、予測のつかなさと不安定の感とその現象に対する一市民と
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