今日の生命
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)慙愧《ざんき》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四六年三月〕
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小林多喜二は、一九三三年二月二十日、築地警察で拷問された結果、内出血のために死んだ。
小林多喜二の文学者としての活動が、どんなに当時の人々から高く評価され、愛されていたかということは、殺された小林多喜二の遺骸が杉並にあった住居へ運ばれてからの通夜の晩、集った人たちの種類から見ても分った。彼の作品を熱心によんでいた労働者、学生、文学上の同志たちに交って、思いもかけないような若い婦人たちも少なからず来た。これらの人々がその夜の通夜に来たという事実は全く独特な、日本らしい道を通って私に分ったのであった。
警察は、殺した小林多喜二の猶生きつづける生命の力を畏れて、通夜に来る人々を片端から杉並警察署へ検束した。供えの花をもって行った私も検束された。「小林多喜二を何だと思って来た!」そう詰問された。「小林は日本に類の少い立派な作家だと思うから来ました」「何、作家だ?」背広を着た特高は、私を
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