そこまで行っては普通でないという事をはっきり云って忠告した人はなかったそうだ。私たちが今日の生活の文化の問題として恐れるべき点はここにある。一人二人の校長の狂信めいた昨今のものの見かたそのものより、それは異常であるという事を当然忠告すべきであるのに、何となし淡白に云い出しかねさせる空気が社会にあることを重大に戒心しなくてはならないと思う。
 もしそんな度はずれな思いつきが実現して、数百の少年少女が朝夕忠孝! 忠孝! と号令かけて、無心なままに感情を鈍化させられて行くとしたら、その結果は一つの冒涜であり悪であることを否定する人があるだろうか。
 今日文化のあらゆる面で私たちの願うべきことは、所謂健全な文化と不健全なものと一目でわかる区分をつけるというような単純なところにはなくて、健全さも或る瞬間には不健全なものと転化してゆく、その生きた刹那の機微に対して敏感でなければならないということだろうと思う。
 この頃の生活で私たちは配給をうけるということに馴れかかっている。配給される物については手拭一筋にしろ、こちらは全然うけ身な関係におかれざるを得なくて、ともかくそれを受けとらなければ無しでい
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